へんろの人々 (6)四国霊場巡拝先達:中田さん
以前のレイモンドさんのエッセイ「Encounter on the pilgrimage — Master Nakata」に登場した中田さん(上の写真中央)を改めて紹介します。中田さんは愛媛県の47番札所八坂寺の近くにお住まいの先達さん。1988年に初めて四国遍路を経験して以来、その魅力に引き込まれて巡礼を重ね、2015年に四国八十八ヶ所霊場先達*に、2016年に四国別格二十霊場先達に、さらに2020年には四国三十六不動霊場先達と西国三十三観音霊場先達になったそう。そんなお遍路の大先輩がメッセージを寄せてくれました。
*先達とは、各霊場会から公認を受けた案内人のこと。お遍路さんの模範として、作法の指導や札所の案内などにあたります。先達の認定を受けるには、複数回の巡拝、推薦、審査、研修など霊場会ごとに条件があります。
中田 伊規雄 Complete Shikoku Pilgrimage many times
報恩謝徳の気持ちを持って
私が初めて四国遍路を経験したのは1988年のことでした。その後、遍路体験ツアーに参加してお遍路のノウハウを学びました。本格的にお遍路を始めたのは2009年から。その年に母が他界し、供養になればと思い始めました。そのうちに四国八十八ヶ所霊場以外にも霊場があることを知り、あちこちを回るようになりました。
九州や中国、東北、関東地方の霊場も回ったことがあります。数えてみたら、全部で20の霊場を回っていました。現在、四国八十八ヶ所霊場は60回目、四国別格二十霊場は20回目、四国三十六不動霊場は10回目、伊予十三仏霊場は8回目を回っているところです。
お遍路さんをしていると、全国のお遍路さん、海外の人たちと知り合って友達になり、交流ができてありがたいことです。先達の心得として、霊場巡拝のマナー、作法、決まり事などを初めてのお遍路さんたちに指導し、四国遍路は素晴らしい、よかったねと言われるよう、報恩謝徳の気持ちを持って、1人でも多くのお遍路さんを導きたいと思っています。
最近は四国別格二十霊場、第八番札所の十夜ヶ橋永徳寺でありがたい経験をさせていただいています。
この十夜ヶ橋永徳寺は、千二百年の昔、弘法大師が四国で修行をされていた折、日暮れにこの付近にさしかかり、小川にかかる橋の下で野宿をされたという場所です。このことから、お遍路さんは遍路中に橋の上を通るとき、お大師様を起こさないよう杖をついてはならないという作法が生まれたといわれています。
この十夜ヶ橋永徳寺が、2018年7月7日の西日本豪雨災害によって浸水し、本堂、大師堂、庫裏が大規模半壊となり、本堂は解体せざるを得なくなりました。この由緒ある霊場を後世に伝え残すため、再建実行委員会が発足されました。
私はお遍路をしているとき、十夜ヶ橋永徳寺ご住職の三好さんと親しくなっていました。別格二十霊場の先達申請はいずれかの札所から提出していただくのですが、私は十夜ヶ橋永徳寺から申請していただきました。そのご縁で再建実行委員になってほしいとの依頼があり、引受けました。
いざ再建工事するとなり、地元の建設業者さんに見積りをしてもらうと、予算と合わず苦戦していました。誰か他に業者を知らないかということになったとき、「じつは私、大工です」と申し出ました。みんな驚きの表情でした。その時まで、私の仕事が大工だということは、住職さんはじめ他の委員の方々にも知らせていなかったのです。
それから話が進み、
2020年5月、客殿・納経所が完成
2023年5月、庫裏が完成
2023年6月、本堂工事に着手
現在は2024年3月の本堂完成に向けて奮闘しています。
この由緒ある霊場十夜ヶ橋の工事をすべて任せていただき、光栄であり感無量です。